サイモン・シン 『暗号解読』

シーザーの時代から第二次世界大戦、そして将来の量子コンピュータや量子暗号に至るまでを描いたサイエンス・ノンフィクション。数学の話もわりと多めだけど、こうやって歴史の側から見ると、どう役に立ったかというのがそのまま業績の偉大さとして書かれるので、純粋な数学の話としてそんなに面白いことはない。それよりもヒューマンドラマですよ、サイモン・シンは。軍用暗号として暗号学は進んできた期間が長いのである意味血なまぐさい話が続くんだけど、解読者と作成者の1人1人の人間に焦点を絞ってそれを上手く避けたり、軍機密になってて明かせなかったけど実は世界に先んじた発見をしていたよ、というまさしくこのような本でこそスポットを浴びるべき人が何人も出てきたりで、読み物としては面白い。ついでに暗号の基礎というか原理がわかった気になれるというのもとてもいい。公開鍵とかね。
なんというか、素因数分解の事実上の不可能性、というやつの、その事実上って言葉はいいな。そういう量的な感覚というのは実務をやってないとわからないものだし、人間の不可能性というか限界をある程度設定してしまうのもいい。そして量子コンピュータの構想によってそれが破られちゃうってのもいいですね。切り離された歴史ではなく、自分が未だその流れの上に在るということは忘れちゃいけないんだろうけど。
暗号解読(上) (新潮文庫)
暗号解読 下巻 (新潮文庫 シ 37-3)