太宰治 『グッド・バイ』

わりにアッパーな方の太宰治。最晩年も最晩年、未完で絶筆となった表題作も含めた短篇集。軽妙な語り口で太宰の死生観が素直に書かれている部分もありこっちも変に身構えずに作者一流のテンポや言葉にひたれる。特に『パンドラの匣』の妙なポジティブっぷりはなんか変で凄くいい。他の作も、主人公の最悪な男と、恋愛関係にあるわけではないけれど主人公と対になる女、というモデルが繰り返される中で何か太宰の、自分自身を道化としたような小説を通じた人生観と、晩年の女性観が深まっていくように見える。そういう意味では、主人公の男が数多い愛人と次々に手を切っていくために昔の知り合いである闇屋の怪力美女を使う、という『グッド・バイ』が未完で終わるというのが残念というか、こりゃ「心中失敗する気だったんだけど上手くいっちゃった」説も出るのも納得、という感じ。
ヴィヨンの妻 (角川文庫)