苅谷剛彦 『知的複眼思考法』

こないだ読んだ木下是雄 『理科系の作文技術』と比べて言うなら「文系の作文技術」とでもいったところか。物事を1つの視点から見るのではなく、複数の視点から問題を見ることで論じるべき問題を浮かび上がらせて、それを論じる方法を論じた本。ちょっと古めの本だけど、実用書としてうまくまとまっていて古さは特に感じない。

前半の、文章を批判的に読んだり、自分の考えを文に正確に起こす技法というのはあれだね、はてなとか2chで適当にクネクネやってたら否が応にでも身につくスキルじゃないかと思う。webのシニカルなところから発展したメタ視点とでもいうのかな。だからこの本で読むべきは後半。問の立て方と思考の方法。特に問の立て方、問題の概念レベルをどこに設定するか、そして新たな概念の抽出とラベリング。これによって問題は励起されて始めて議論の舞台に上がるんだなあと。例としては、この本の最後の方に「日本は平等だといわれてるけど、親の教育など生まれつきのもので子どもの学歴に差が出てしまっている」ということが書いてあるけど、これはいまや「格差」というラベルがつけられて大きな論議の対象となっている、とかね。概念レベルの話で言うと、どうしても問題を突き詰めていくと「そんなの人それぞれ」とか「個人の事情も知らないのに知ったような口をきくな」なんて方向に議論が進みがちだけど、ある程度のノイズを切り捨てて抽象化してしまうことで初めて見えてくる論点もあるよ、みたいな。するべきなのは人生相談なんじゃなくて議論なんだな。これはwebでやってると混乱することがしょっちゅうだよねー、とか。

まあ、webでの評判ほどの手ごたえはあんまりなかったかなあ。学生向けのテクニック集として文庫価格ならありだとは思うけど。

知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ (講談社+α文庫)