朝永振一郎 『物理学とは何だろうか』

16世紀から20世紀中ごろくらいまでの物理形成史を一般向けに書いた本。
個人的にあんまり、科学史ってのにまるで興味を持てない性質なので、上巻のケプラーやらニュートンやらを読んでる時はあんまり面白くなかったんだけど、、上巻最後から下巻中ごろまでの熱学のくだりはそこそこ面白かった。
これは全体通してなんだけど、科学史そのものというよりは、その思考過程をトレースしているような構造。引用出典の一次資料の多さにもそれは表れてる。んで特にその熱学の部分は、分子の巨視的視点と確率論のすり合わせ、現代では当たり前に行われていることを、当時の科学者の視点で解決しようとしているから、なんていうのかな、スリルがある、というのか。
そういうのを含めて、この本を一番楽しめるのは多分、結果としての物理を既に学んだ人なんじゃないかな。一般向けに書かれてはいるけど。


そして『量子力学』をちら見した時にも思ったのが、この筆者はたとえ話が上手いってこと。
どこか優美さを漂わせたまま、実感の湧きにくい物理現象を、卑近な例にぐっと引き寄せて説明するのが上手いんだこれが。
よく「数式でこうなるんだからなるんだろ」って言う説明をして怒られる自分としては大変あこがれる。


んで病室で口述したという『二十世紀への入口』と、講演録の『科学と文明』は、理論屋さん志望の自分としてはかなりぐっとくる文章。
後者は、ノーベル賞メダルに彫ってある彫刻などに例えながら、科学に対する怖れや罪の意識を指摘するんだけど、
やっぱりそこで指摘されてる事実ってのが、30年経っても好転していないこととか。
それは科学者だけが悪いわけではないんだけど、身につまされるというか。
そして前者は、理論物理の理論が理論であるための苦しみとか。ボルツマンが論争の末に欝で自殺した話やら正直きつい。
なんか。つらくなった時に読み返そうかな、と思う。

物理学とは何だろうか〈上〉 (岩波新書)

物理学とは何だろうか〈上〉 (岩波新書)

物理学とは何だろうか〈下〉 (岩波新書 黄版 86)

物理学とは何だろうか〈下〉 (岩波新書 黄版 86)