10mile 『クロスクオリア』

 1本2,3時間くらいの『ひとりのクオリア』『ふたりのクオリア』百合小品2つのセット。というか2つの主人公同士が友人同士で、お互いの物語を参照しながら進む、ある意味群像劇の形だったりする。それで実際は2つとも完結してなくて、どっちも「『おわりのクオリア』、ご期待下さい」で終わるという、まあ導入部分だったりするのでわりとずっこける。まあこのスタッフが『カタハネ』で見せた素晴らしさってのは、群像劇を最後の最後に1点に結集させるカタルシスにあったわけで、そういう意味では期待できる終わり方なんだけど。
 原画の笛の相変わらずやさしくてやわらかそうな絵に淡い塗り、松本慎一郎の音楽はシンプルな構成に手数で起伏を表現するさすがの仕事、それらで作られた穏やかな箱庭的な雰囲気の中に、どっちの作品もひょんな事情から始まる主人公の部屋での同棲、と更に限定された舞台で派手な起伏もなく話は進む。それが、どっちの主人公も実は知覚に問題があって、それで他人とのコミュニケーションに苦手意識を持っている、という話なので、閉ざされた舞台で内面的な話に進むのだけれど。その中で珠玉なのはやはり、特に『ひとりのクオリア』前半なんだけど、"耳"のいい、というか会話文の口調や言葉遣いが物凄い自然で丁寧な文章。関係を深めるのに必要な部分の描写だけをしっかりやって、他方、派手に状況を動かすだけの場面をあっさり省略できる(遊園地でのデートシーンを、到着後すぐの一場面だけ書いておしまいに出来るって凄いよな、確かにそこで何かエピソードをやろうとしたらもう一つ安いアクシデントみたいのを挟まなくちゃいけなくて、それは絶対無駄なんだけど)、構成の意図とそれに対する自信みたいのはわりと好感。

クロスクオリアセット

クロスクオリアセット