泉鏡花 『日本橋』

 2人の芸者を中心に据えた、明治期ぐらいを舞台にした四角関係の物語。しかし純粋な恋愛感情としての愛情はあまり描かれず、あったとしても粗野で肉体的、滑稽にすら見える。そのほかの愛情と申せば、姉の身代わりだったりライバル芸者への当てつけだったり、純愛には程遠いものなのだけれど、それでもそういった歪んだ愛情の揺れ動きの中にどうしようもなく人間が生きている。人形とか芸者とか、そういうただの人間よりも制約のかかったものを象徴的に使って、その幻想性の中の美しさを立ち上がらせる文章はもう、さすが泉鏡花

日本橋 (岩波文庫)

日本橋 (岩波文庫)