電子中毒の私の扁桃体を撃ち抜いて。本当に壊したいものが見えなくなるように、そっと、そっと。

 うちの高校の学校祭の名物の1つに、行灯行列ってのがありましてね。自動車1台分くらいの大きさに木材で土台を組んで、あとは青森のねぷたみたいな感じでなんか平家の何ぞやとか三国志の何ぞやとかを象るように針金を組んで色紙を貼り、で車のバッテリーを積んで中に電飾も施して夕暮れくらいにそれをみんなで担いで出歩くと、まあそれこそ小規模のねぷた行列みたいになるわけです。それをクラスに1つ、主だっては男子が作ると。学校祭が毎年夏休み前にあって、行灯作成がその1ヶ月前とかに始まるのでクラスの団結とかを深めるのにも役立つらしくてですな、まあ毎年毎年春のクラス替えで立ち回りを失敗する俺としてはこの辺りでいい加減まともに立ち位置を見つけないと、その後の1年間が大変残念なことになるわけです。毎年へらへら笑いながらやってましたけど、俺にとって学祭とその準備なんてそれ以上にも以下にも意味なんか無かったですよ。楽しくもなんともない。ちなみに高2と高3ではこの学祭でも立ち回りを失敗しました。残念でした。具体的には、高3の学祭最終日というか後片付けの日にサボって札幌ドームに野球を観に行き、学祭の打ち上げには呼ばれないという残念ぶり。で、その行灯作成の中で一番長い時間がかかるのが針金組みです。だから、うちの高校で愚図が愚図なりにスクールカーストの末席に加えて貰おうとすると、この針金をいじる技術がわりと必須なわけですよ。そんなの糞を食らえ。Eat your ウンコ so much.ですけど、まあ俺も3年間でそれはそこそこ出来るようになったわけ。違う違う、ウンコを食う方じゃなくて、太い針金で大まかな形を作ってそれら同士の交点を細い針金で固定する方、ね。
 そんな屑みたいな技術を屑みたいな理由で身につけてから早4年、今や俺も大学を卒業しようというところ、最後の卒業実験ってのもいよいよ締めに入ろうというところでございます。一応俺は大学院を理論で受かっているわけで、そういう意味では、何事もなければ俺のキャリアの中でも多分これが自分の手でやる最後の実験ということになるはずです。いや、これからも「ヘソ穴と尻穴を乾電池で繋げてピリピリさせてみよう!」とか「人さし指の腹にシャープペンシルの芯はどのくらい深く刺さるのかな?」みたいなのは続けていくつもりですけど、どっちかてとそれは実験ではなくて開発だから。それで、今回の実験に使う部品の1つに電子銃というものがありましてな。ただでさえ電子銃なんて名前はかっこいいですが、英語でこれを呼ばせるとelectric bombarderですからね。かっこいいにも程があるでしょう。まあその実態は、見知らぬおじさんを地下の改造室に無理矢理連れてって改造して、おじさんが脇で下敷きをこするとおじさんの汚えヘソから物凄い勢いで電子が出てくるようにしただけの、部品です。改造したおじさんは焦点の定まらない目で口角から泡を吹いていますが、頭の中ではケーキのことしか考えられないようにしたのでおじさんも幸せなはずです。「おじさんにも家族があったろうに……」まあ。そもそもがこの部品を作るところにまでこの実験がこぎ着けられるかどうかがわりと最近までわからなかったこともあって、この部品は全員が関わるのではなく、他の部品や発表資料の作成なんかを同時進行で5人くらいの班の中で分担することになりまして、で俺ともう1人がこの電子銃ってのを担当することになりました。
 まあ「実験を試行錯誤して楽しいな」てのはみんながコミットしてやるものだからなのであって、こうやって分担してる時点で電子銃なんかさして重要度の高くない部品ですし、他のところを担当してる人からしてみたら、さっさかマニュアル通り作ってスペック通り動いて当たり前な部品なわけです。ところがどっこい、構想から仮組みくらいまではわりとあっさり出来たものの、いよいよ最後の実験というここ数日に来て、この電子銃が実験中に壊れて実験が停まる、というのがちょっと続きましてな。特に先週の木曜なんかは、ほぼ全員を集合させたものの、その電子銃に必要な部品、しかもまあこれがどうでもいい市販の豆電球単価63円也(おじさんの目蓋の上辺りに縫い付けて、「脇の下敷きをもっと勢いよく擦ると、おじさんの夢に出てくるショートケーキがもっと甘くなるよ」ということを理解させるのに使います)なんですけど、これの納品待ちで特にすることがない、なんてこともあって、電子銃担当組に向けられる視線は日ごとに厳しさを増すばかりでした。
 そして今週の月曜日、いよいよ実験のフィナーレに向けて、色々な部品を実際に作動させながらテストをしていたらまた電子銃が壊れましてな。おじさんが暴れ出した。ボクも必死で布団叩きをフルスイングでおじさんの尻を打ちながら「鎮まれ! 鎮まれ!」ってやったんですけど、まあ壊れちゃったおじさんはもうしょうがないです。静かにしてからまた実験室の壁に塗り込みました。8人目。俺の中で電子銃おじさんに関する妄想が止まらなくなってきてるんだけどどうしたらいい? 続けます。で、もういよいよ日に日に厚みを増していく実験室の壁に痺れを切らした皆様が「おい電子銃組EE加減にせえよ」みたいな雰囲気を醸し出してきまして。「このままやったら実験にならんやろがい」と。「そういやアンタんとこの妹はん、今年大学生になったんやったな。おおう、電子銃に改造すんのに年とか女やとかは関係あるんかいの、のう?」「そ、それだけは! つ、次こそは必ず壊れない電子銃を作りますので! 平にご勘弁を!」ということになりまして、ちょっと機構とかを真剣に考え直さないといけないな、と。
 そうは言っても考え直す時間なんかないですよ。早くしないとボクの13人の妹たちが。で、まあ、もしかしたらこれが悪いかな、くらいの気持ちでアタリを付けたのがテープです。部品を作るのにビニールテープを使ってたんですけど、これがどうやら悪さをしているらしいと。じゃあテープを使わずに作ったらいいでしょう、なんですけど、いくら俺でも、使わなくていいところにテープなんか貼りませんよ。携帯電話の電池蓋のところに青いビニールテープを貼って「馬鹿には見えないプリクラ」と言い張る遊びも最近はしてませんし。だから「テープ使うな」っていう命令コマンドを受けて電子銃を作ることになり、しかも途中から、もう1人の電子銃組の人とあと前にちょっと電子銃作るの手伝ってくれた人がこぞって中座し、残る俺以外の人は資料作成に忙しい人ばかり、電子銃作成は俺1人に丸投げされたのですよ。そうねえ、俺にとってこの「テープ使うな」っていうのがどのくらいの衝撃的な命令だったかをエロゲに喩えると、「店舗毎に特典のテレカの柄とか変えんのやめよう。テレカ商法とかズルいから」「いえ、あの、これでどうにか新作の発売数を稼いでいるメーカーも一杯ありますし、あと特典目当てに複数買いした人が新作を中古に流して相場を下げて閾値を下げることで、多様化する現代文化の中でエロゲユーザーというもの全体の裾野を確保する役割が、」「やめよう。ズルいから」っていうくらいかな。よくわかんないけど。いや、風呂場で思いついた時は良い喩えだと思ったんだけどね……。自分でようわかんなくなる喩えって何? じゃあ、出来ればエロゲは新品で買いましょう、で。まあ俺の状況はそのくらい絶望的な気持ちなわけ。
 えー、なんか知らんけど、cmizunaさんお得意の特殊能力:心の引きこもりが発動しました。いくら1人でやるものはいえ同じ学年で同じ専攻の人と一緒の部屋にいておきながら、一言も口をきかないどころか、状況開始直後、即座にiPodを出す引きこもりっぷり。テープの代わりに使う接着手段であるところのハンダも丁度無くなって、そしたら隣でやってる別の班の実験室にお裾分けしてもらいに行かなくちゃいけないんですけど、心の引きこもりがそんなことするわけもなく、ゴミの中から使えるハンダを溶かして再利用して済ませるという心の閉ざし方。まあそうするとハンダの使える総量みたいなのも制限がかかってくる。さて、テープとハンダの代わりに使う、部品同士の主な接着手段として俺が選んだのが、はい来ましたよ、細い銅線です。で、それが、材質こそ違えどその太さといい柔らかさといい妙に手に馴染むこの感覚、部品側の太い銅線がまるで針金の12番規格、固定用の細い銅線はまるで針金の24番規格、しっくりくるにもほどがある、高校の学校祭で使った針金そっくりなわけ。ペンチで太い銅線の形を整える感じ、今回はちょっと細かい作業だったので細い銅線はピンセットを使ったんですけど、それでも太い針金に巻き付けていく感じ、ああこの作業は懐かしいなと。そして、心を閉ざして一人針金細工というのはもうあの頃に何度も繰り返してきました。「俺はちょっと外に出てくるから、その間にちょっとこれ作っといて」と言われた部分を黙々と作り、その人が帰ってきたところで「いや、やったんだけど、こんなんなっちゃったんだよ。歪んでるだろここー?」と笑いながら見せて「わはは、ほんとだ、歪んでんじゃん」と言われては二の句を継がせぬタイミングで「ですよねー(笑)」と言いながら自分の作った針金細工を床に叩きつけて踏み潰し「な、何もそこまで」と言わせるところまでが、俺の心の引きこもりと天の岩戸ダンスなわけで、こんなんもう高2では片手で数え切れない回数、高3でも1度やらかしてますから。1人きりの世界で針金をいじってると自然そのような思い出が蘇り、そして4年経ってもちいとも進歩してやしない自分にもまたげんなりしては、一層心の扉が堅く閉まっていくわけですよ。そうこうしている間にも小一時間ちょっと、一応手は動かし、iPodから流れるミュージカル映画のサントラなんか口ずさむくらいの孤独っぷりの中(『RENT』好きな人となら友達になれる気がする)導通のチェックを終え、たぶん出来上がっただろうというところまでこぎ着けました。一息入れにトイレに行く途中で擦れ違うくらいのいいタイミングで途中抜けてたメンバーも戻りまして。出来上がったやつ見せて、良くも悪くも何か言われたらまた俺、発作的にこの部品踏み壊しちゃうのかな……? と思いながら「わかんないけど、出来た気がする」って言いながら電子銃組のもう1人に見せたら、出来上がってるのが当たり前のような顔で、でそっから先にその人が出来そうな修繕と作業にすぐ取りかかろうとされて、「あ、すごい、俺、今、踏みたくならない。そうか、あの時に米澤君にも横井さんにもわからなかった、俺に対する正解の選択肢はこれだったんだ」って結構内心びっくりしたんですけど、そんなことを考える暇もなく、この電子銃待ちの状況が改善されたんですもの、すぐに本実験が始まりますな。9代目電子銃おじさんはちょっと俺に踏んでもらいたそうにしてたけど。
 あの、1人の世界にいる時は大概気が張ってましたけど、電子銃が出来たら妙な満足感で急に疲れちゃって。あのね、1人の世界に入って、この疲れと満足感の共有を自分から絶ってんのに、終わってから勝手に「疲れた」とか言うほどの甘えなんかないですよ。実際みんなが張り切る実験はこっから先なんですけど、俺1人だけへろへろしてんの。一応電子銃の挙動を操作できる位置にスタンバイしたんだけど、そうね、今自画像を描くとしたら間違いなく瞳にハイライトは入れずにいわゆるレイプ目にして描くだろう、ってくらいのところまで落ちちゃって。んーでまあ、最初にも言いましたけど、電子銃なんか、ここ数日みたいにみんなの足を引っ張って悪目立ちしてるのがおかしいのであって、基本的にはどうだっていいんですよ、多分。役割をちゃんと果たしているのが当たり前ってなもんで。今回の実験も、最初こそこれまでの素行不良があって「装置ん中で電子銃壊れてんじゃねえの?」って意味もなく幾度もやたらと故障を疑われたりしましたけど、安定したことがわかると、もう後は完全に放置されまして。実際メンバーの1人も実験の後片付け途中で「ボンバーダーなんかどうでもいいよ!」とか言ってましたし。そしたら自然、電子銃をいじる役割であるところの俺も微動だにせず、"なんか斜めに立ってる太い棒"くらいの存在になりますな。ま、棒よりボクの方が、存在してるだけで辺りに牛乳の腐った匂いを振りまくことが出来るので勝ちですけど。