TJR 『BackStage』

 舞台、劇団を題材にしたエロゲ。学園もの真っ盛りのエロゲ業界に於いてわりと登場人物の年齢層高めの一作ですかね。シナリオを大きく分けると3段階。1段階目はフィクションによくあるよう、その職業の人間の視点で日常を描くことで内部の人間にしかわからない小ネタとか業界人あるあるを衒学的にならないよう面白おかしく提示する、というのの演劇版。演劇という題材を扱うこの作品の本気度が伺える小手調べ的な役割でありながら、まずは仕事としての演劇を扱うことで主人公の演劇一途っぷりを強調する導入部分なんだけど、成長前の主人公の幼さが傲慢でちょっと敷居の高い導入かもしれない。
 2段階目はそっから演劇の稽古を積み重ねていく風景を描く。演劇を表現ととらえ、特に身体性に重きをおいた演劇論と具体的な一風変わった稽古手法を重ねていくことで演劇の物理的なイメージを持たせつつも、"表現"を通じて、表現したい何か、それを持つ登場人物ら、というメンバー個人個人の問題に持っていく展開に隙が無い。この辺の表現云々は個人的にもよく考えることだったりするので、わりと普通に思うところの多い部分でしたねー、エロゲとかあんま関係なく。ここまで共通ルート。
 3段階目、ヒロイン毎の個別ルート。多分おるごぅるが担当しただろうヒロインのエロシーンがなんかすっげえギャグとして面白くもあり。まあ人間同士の関係なんか多かれ少なかれロールプレイで、恋愛、特にエロなんかその最たる部分だよね、とか言えばこのエロゲの文脈に沿ったものになるんでしょうけど……いや、普通に面白いですね。もちろんシナリオとして各ヒロインの事情に突っ込んでいくシリアス部分もなかなか。やっぱり職業をテーマにすると自然に作品の"それから"が重要なモチーフになってきますからね。特にここまでの展開で"演劇人"というもの、その業に魅せられてしまうと酔狂先生シナリオが、全然ヤマのない展開なのに重いものになるかもです。いやはや、プロ、profession、公言ですよ。個人的にはアリスが。とても。いいです。
 シナリオ以外の部分も派手さはないけど足を引っ張るほどでもなく、今の新品の流通価格を踏まえると超良作、特にちょっとでも自分に"表現する側"の自覚がある人には引っかかる部分がどっかにはあるでしょうな。

BackStage 初回版

BackStage 初回版