太宰治 『ヴィヨンの妻・桜桃・他八篇』

太宰治の短編集。主に戦後のものが多めで、夫婦とか家庭に主眼をおいた作品がほとんど。個人的にはあんまりぴんとくるものが無かった。それは俺が未だヤケ酒の味を知らず、というのが大きい、のかもね。辛苦が足りない。

あえて誤読をすると楽しそうなのが『日の出前』。戦時中に検閲される前のタイトルは『花火』だったやつ。青空文庫にでもあるだろうから以下ネタバレするけど。金銭的に放蕩生活を続ける兄に散々酷い仕打ちをされながらも兄を擁護し献身する妹が主役で、ついに兄が父親に殺され(そこはぼかされてるけど)た時に、

 節子は、誰よりも先きに、まず釈放せられた。検事は、おわかれに際して、しんみりした口調で言った。
「それではお大事に。悪い兄さんでも、あんな死にかたをしたとなると、やっぱり肉親の情だ、君も悲しいだろうが、元気を出して。」
 少女は眼を挙げて答えた。その言葉は、エホバをさえ沈思させたにちがいない。もちろん世界の文学にも、未だかつて出現したことがなかった程の新しい言葉であった。
「いいえ、」少女は眼を挙げて答えた。「兄さんが死んだので、私たちは幸福になりました。」

という台詞で締める作品。この台詞は、俺の中の家族愛(「家族なんだから」で全てが許されるべきだ(エロゲの『家族計画』にめちゃめちゃ影響受けてるけど))の側に寄せて読むとかなりしっくりくる言葉だな、と読んでからしばらくしてふと思った。そういう強引な読み方を意識的にするのも悪かないかなと。

ヴィヨンの妻・桜桃・他八篇 (岩波文庫)