志賀直哉 『小僧の神様―他十篇』

"小説の神様"志賀直哉の自選短編集。それこそ通り名の由来となった表題作『小僧の神様』や『正義派』などの、切れ味鋭いというか洗練されきって一切の無駄がない短編だらけで、読み終わってからみるとどうしてこの内容が200P弱の文庫に収まっているのかがわからない。そしてなんといっても一番すげえなと俺が思ったのは『城の崎にて』。怪我の療養に出かけた先での作者の心境小説なんだけど、事故によって死というものを強く意識するようになった作者が、身近な動物を題材におもむろに(←辞書の意味で)死と生の境界に肉薄し、その先に感じる寂寥を書ききっていて、これはすげえ。
他だと『好人物の夫婦』もお気に入り。若干メタっぽい動機で書かれた(巻末に作者のあとがきがあって題材とか動機を説明してて、これもかなり興味深い)らしいんだけど、そのメタの対象っぽい「愚かさから来る誤解や意地張りで悲劇を作る事がいかにくだらないか」というのはラブコメ系のエロゲやラノベでよく使われる技法だから身につまされるというか、そういうのやってる時の歯痒さを上手く消化して暖かい小説に仕上げてくれているのはなんだか嬉しいよ。

小僧の神様―他十篇 (岩波文庫)