田口善弘 『砂時計の七不思議』

粉粒体の物理の本。俺の課題演習のテーマ予定のやつ。この粉粒体ってのは世の中に一杯あふれてて(ごま塩が振っても振っても混じらないとか砂漠の風紋とか)、工学的にもかなり応用がひろい(薬の薬効成分を混ぜるとかパイプが詰まるとか)んだけど、物理的な解析はあんまり進んでないというのがほんとのところ。そもそも粉粒体が何かってと、個々で分離してはいるけど殆どは触れ合っているもの、というもの。つまり、系全体をマクロで見ると連続体っぽく見えるけれどミクロで見たときに物質の大きさを無視できない、というものなのね。このせいで例えば力の向きを見ようって言う時には、物質同士が実際に触れている方向をミクロで考慮して(再配向とか言うんだけど)鉛直方向の重力が水平方向の壁に向かってったりするわけですよ。他にも非弾性衝突でしょっちゅう局所的に塊魂を作ったりアーチ現象で目詰まりを起こしたりとかね。離散だから一見シミュレーションしやすいかなとも思うし実際数値計算で大きな結果を出していることもあるんだけど、如何せん何がパラメータなのかもわかってないし摩擦係数は磨り減って時間変化したりとか制御できるパラメータ超多いとかなので、なかなかそうもいかんのです。例えばほら、熱力学的温度がパラメータにならないときたもんだ。
さてこの本はと言うと、章タイトルが

第一章 流れ落ちる
第二章 吹き飛ばされる
第三章 かき混ぜられる
第四章 吹き上げられる
第五章 ゆすられる
第六章 粉粒体とは何か

ということからわかるように、ダイナミック、動的な場合においての粉粒体の振る舞いを説明しようとしてる。モデルによるアナロジー数値計算が主な武器。数値計算アルゴリズムまで説明して砂漠の風紋ができる仕組み(確定してるわけじゃなくて上手く説明できる、ということだけど)を解説したりするし、モデルでは散逸現象として固体と液体、気体のアナロジーでかなりいいとこまでいって沸騰みたいなものも見れるんだけど、対流現象とかやってるとやっぱり粉粒体特有の現象が出てきて参ったな、というところもある。混ぜるとかえって分離するって話の辺り、エントロピーのトピックが変な方向を向いていて、もうちょっとちゃんと計算して見せてくれればいいのにとは思ったかな。ちなみに第六章は、こういう現象論的な物理と、一般的に花形として扱われる物質至上主義的な素論とかの物理の比較やこれからの物理の理解のあり方についての作者の自説をまとめてらっしゃるもの。一冊通してわりに定量的な話とかガチで書いたりとかもしてて、物理の同業者相手に「俺今こんなことやってんよ」ということを紹介するのにはちょうどいいかな、というレベル。俺は課題演習ではダイナミックじゃなくてスタティック、静的なとこでの振る舞いがやりたい(この辺り俺が伊藤静を好きなこととはあんまり関係ありませんよ)と思ってはいるけれど。まあ暇があれば読んでみてください。
砂時計の七不思議―粉粒体の動力学 (中公新書)