月が私を狙ってる!

あー、あれですよ。久々に思い知らされましたよ。俺って死ねばいい。

いやまあ取れたての愚痴を吐き散らしますとですね、今日は金曜日、電磁気学理論演習があったんですよ。んで前回の時間の最後、次回の発表者を決めるときに、なんか流れで俺に当たったんですよ。まあいいですわな。やりますよと。それで土曜日だかに発表の用意して。そして今日を迎えたんです。

授業の前の時間が空いてたので、その発表用のノートを30分かけて復習して、いざその授業開始ですよ。といってもまずは俺の前に一問あったのでそれの発表の後なんですけど。で。その発表がなんだか物議を醸してるんですね。いい意味で。なんていうのかな、学生同士で疑問をぶつけあうっていう、自分ひとりでの演習では出来ないこの授業の最大利点ですよね。その置いた定数は実数なのか整数なのかとか。具体的には第1種ベッセル関数の次数に関わる問題かな。そこを整数に制限する必要があるのかどうかとか。そういう話。

んで一応その話はなんとなく聞き覚えがあったから、一世一代の勇気をひり出してですよ。普段は精神的外殻をめちゃめちゃ厚着してる北国出身のこの俺がですよ。口を開きましたよ。「非整数のベッセル関数はJ_lとJ_-lが線型独立だからノイマン関数を考えなくても良くなるんですよ」というか整数次だと線型従属になるからノイマン関数というものが編み出されたんだけどな、だからlを実数にとって和でなく積分にして範囲を-∞からにすれば良くね、ということを申し上げました。そしたらさ。いやまあ確かにうろ覚えで言ったけどさ。まるで検討無しの総スルーてなんだよ。悪い方向に静まり返る教室。TAの大学院生だけじゃなくて、今回はたまたまこの教室に担当の教員もいたっていうのに。スーパースルー。変な風に静まり返った教室をTAが「続きは次回までに調べてきます」と取り繕う。さっき確認したら俺の言ってること間違えてはいないと思うんだよね。結果的にはそのあともう一個出た問題の解決にもなってると思うし。ああ、そうか。この場合は合ってるかどうかじゃなくて俺が発言したこと自体が大間違いだったんですね。前々回に「それって除去可能特異点ていう名前がありますよ」って言わなかったのが大正解だし、前回に「実数だけ考えれば虚軸方向がどうのとか関係ないですよ」て言わなかったのが大正解だったと。この時点でかなり教室から逃げ出したい気持ちでおなかがいっぱいなんですけど、そうもいかない。この次の問題の発表者が俺なんだもの。

というわけで黒板の前に立つ俺。かなりの低テンションで準備してきたことを淡々と黒板に書き写し説明を呟く。その間10分。淀みない発表と言えば聞こえはいいけど、こんなの要は聴衆の反応を見ずに作業をこなしてるだけの自動人形ですよ。こんなブサイクな自動人形はボークスに置いたところで誰も買いませんけどね。「…まあ、そういう問題でした」で締めたところで質問どころか反応すらない。悪いのは反応を返さない側ではなく間違いなく俺。何故ならばこの反応は覚えがあるから。例:前期の時の力学の発表、同電磁気の発表、そしてさっきの俺が発言をしたとき。要は俺が死ねばよろしい。静まり返る教室の無言で黒板の前にTAが立つ。「t→0と∞の時の具体的な関数形は……」。俺が定性的に説明した部分を定量的に展開し始める。どうでもいいけどそのerror functionの展開間違えてるけどな。もう何も言わないけれど。今日唯一の俺の正解。

なんだよもう。あの授業、クラスを楽しみにしてたのは俺だけだったのかよ。あの舞台は俺じゃない人間だからこそ成立してたのかよ。もう二度と行けないよあの教室。なんだよ。みんな俺が死ねばいいと思ってるなら、誰かが代表してそう言ってくれればよくね? ほんとうに。下弦の月に灼かれて死にたい。