佐伯啓思 『20世紀とは何だったのか』

授業の参考書その2。授業より文明史とか哲学者の名前がばんばん出てきてるので、ああゆとりなめられてんな、という感が。内容は『人間は進歩してきたのか』で近代史をさらって最後に出てきた、ニーチェニヒリズムが前半のメインで、後半は大衆社会への転換というもの。前半のニヒリズムに関しては、どう克服するかではなく、ある程度前提として受け入れ、あるいは受け流すことに主眼を置いている。で、それを前提に、指導者型の政治から大衆型の政治へと転換した、という話を、オルテガの言説などをひきながら批判的に見ていくのが後半。この大衆型の政治、つまり今現在のいわゆる民主主義では、大衆は、自分自身が凡庸な人間であることを知りながらその凡庸さが政治的権利を持つと考えていて、その凡庸さを自分で自覚するゆえに生気を持とうとしない、と批判する、というか批判したオルテガの言説を引用して民主主義への警戒を促す。まあ人権派が聞いたら腰抜かすな、とも思うけど、例えば社会的弱者が民主主義的に政治参加すること自体が目的なんじゃなくて社会的弱者に配慮した政治を行うことが目的なんだ、とか考えれば頷けなくもない話。

相変わらずなんでも(当然とされていることにも)深く批判的に追求していく著者の姿勢には感服だなあと。特に面白かったのは「公的自由」と「私的自由」の話。公的自由というのは積極的な意味で、何を主張し何を実現するか、ということに対する自由で、「私的自由」はプライベートなものとして非干渉性を求める消極的なもの。この私的自由が多様性の尊重という名前で普遍化され、それを旗印に色んなところに一様に適用できると考えちゃうのがまたアメリカンだよね、みたいな。