佐伯啓思 『人間は進歩してきたのか』

授業の参考書、というか前期に行けなかった分の帳尻というか。現代文明論という副題だけど、内容は主に西洋近代の思想史。筆者の歴史観である「重層する歴史」を体現するかのように、次々とテキストを引いては解説しそれを元に論を展開、そして前の文脈を踏まえたうえで次のテキストへと進む形になっていて、1回見失うと危険な本だけど、食らいついて読めば近代全体を一つの文脈で捉えられる。

この一つの文脈で、というのがなかなかの曲者らしくて、つまり、西欧の価値観の普遍化(自由,民主主義=良いもの)というのを、なるたけ形式化、抽象化することによって広げることが近代化と考えるんだけど、それには伝統的な価値観(というと良さそうだけど規範とか宗教観とか)と切り離して考えなくてはいけなくて。結局、歴史としての「文脈」を不要として、ある意味インスタントに西欧の価値の普遍性を認めることが「近代化」ってことになるから、それって安易に賛同できるものではないじゃないか、特にキリスト教のバックグラウンドに乏しい日本ではもう少し問題意識があった方がいいよ、とか。

あとはルソーの社会契約論の話とか面白かったな。とにかく、どのテキストの解説にいってもクリティカルにストイックな姿勢で突き詰めて考えられていて、高校倫理辺りでやった、通り一遍の手放しでの賛同に満ちた解説から、知識が覆されるような感じ。でも、基本的には歴史の概説に終始する点が多くて、これだ、というような著者の主張や結論はない。著者ほどの人がこんだけ考えてもなかなか答えは出ないんだなあと思うと同時に、あと考えるのはお前らの仕事でもあるんだよ、というような、大学の授業としてのメッセージも感じるような。というわけで、考える前段階としての知識を得るための本、という感じで。
人間は進歩してきたのか―現代文明論〈上〉「西欧近代」再考 (PHP新書)