山際淳司 『エンドレス・サマー』

スポーツライターという職種を切り開いた、早世が惜しまれる著者の一作。短編集になりますね。野球やサッカー、ラグビーにマラソン、そして相撲、ボクシングと種目は多岐に分かれますが、どれも作者の評判に違わない、スターだけでないマイナー選手の裏側を緻密に追って、さながらスポーツそのものを描き出すような筆致はさすがです。

もうこの本が出たのは大分古くて、文庫版の奥付が1985年になってます。んなもんだから、この本に出てくる選手はもう引退してちょうど指導者の世代になっているあたりですね。勿論前述のようにノンフィクションとしてスポーツを描いたものとしても充分面白いものとなっています。ある意味懐古主義的に、昔の個性あるプロ野球選手の豪胆さなんかを楽しむことも出来るし、選手が将来どうなったのかをふまえた上で読むのも面白いでしょうね。「草魂」鈴木投手の努力話はなかなか興味深いが、結果迷監督となって野茂を逃がしたってのを知った上で読むと複雑な感じ、とか。
折り返しにある著者自身による紹介文にあるような、

だが、どんな人間にとっても栄光は一瞬のものでしかない。栄光をつかんだと思った瞬間には、その栄光はもはや過去のものとなってしまうからだ。それゆえ、心ある人たちはいつまでも、もがきつづけることになる。この本ではそうした輝き続けようとする男達の物語を書いてみた。

というこの本は、当事者たちが容赦なく引退し著者も亡くなってしまった、この20年後という今に読んでこその価値もあるんじゃないかなと思いました。

エンドレス・サマー (角川文庫 (6145))