福岡伸一 『生物と無生物のあいだ』

ミクロの方の生物の話。前半にポスドクの生態なんかも語られていたり。どうでもいいがロザリンド・フランクリンノーベル賞取れなかったのってフェミニズムの文脈で読んだことあるような気がしたんだが、実際クリックとかがノーベル賞取ったときには亡くなってたんだな。

んでこの本の何が凄いかってと、研究者なんだから当然なんだけど確かな知識に裏打ちされた記述と、それを修辞する日本語の美しさですな。物理の本で文章が上手いのだと、前に読んだ『エレガントな宇宙』なんかが出てくるけど、あれは理解しにくいことを比喩する技術で、物事を正確に記述するのが上手っていう感じでちょっと違うかな。この本が日本人が日本語で書いてるから違和感がないというか日本語の機微、粋が感じられる文章だってのも大きいけど。

結局、タイトルで言ってる生物の定義ってのは動的な秩序、動的平衡だそうな。孤立系だとエントロピーが増大するから常に外系にエントロピーを排出し続ける必要がある、だって。んで原子レベルでは体内の分子は代謝され続けて新しいものに置き換わり続けている、とか。解りやすさだけでいうなら砂上の楼閣なんて比喩よりもこの方がわかりやすいけど、このいちいち美しい比喩が織り成す全体の雰囲気というのがまあいいんだな。んで結局その動的平衡ってのは、学校みたいなもんかな。毎年卒業者が出て入学者が入ってくるけど、全体として学校がするべきことは教育学一つで処理しうる、みたいな。ちょっとずれてるだろうけど、まあそういう組織学の観点からも読めるかもしれない。原子に比べて生物が大きくなければならない理由とかも。

最後はちょっと尻すぼみ気味(GP2に部分的欠損入れればいいんじゃねえの?)だけど、それだからこそ歴史的に確定してない科学って感じで、教科書読んでばっかりの自分としてはちょっと新鮮という感じでもあり。生物の知識は理科総合レベルの俺でも充分楽しめたのでそっち方面での心配も無用でござんす。

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)