-120827

  • 3つ目の話
    • 使う積分公式を探してきて使って、また1つ前進。もう1つ文献から式を引っ張ってきて使えば、ようやく算数の話から物理の話になる気がする。そう、まあこれも世話になってる教員に見て貰いながら手を動かしながらやってるんだけど、その人に教えてもらった文献の読み方が実はちょっとよく分かってない。書いてある積分公式を見て導出を再現するとかなら出来たんだけど。物理の話として、今回極限とった理論が、10年くらい前に流行った話と一緒らしい、って言ってて。まあ確かに似てるんだけど、なんか読んでみても一緒って気がしないから、「またあの論文から3点関数の式を引っ張ってきたら出来るよ」とか言われても、ちょっと内心で首を捻っている。ちゃんと追えば合うような気もするんだけどさ。
  • 4つ目の話
    • 自分がろくすっぽ読んでないのに「この論文読んだらいいよ、多分書いてある」って他人に勧めた論文を、俺も読んでみたら、全然書いてなくて焦った。というか話自体がポシャるような気もしている。「ヤバい」と思いながらも何気ない風を装って、別件を交えながら取り敢えずメールした。そのうち打ち合わせする。

 鬼瓦くんはストロンゲスト。昨日、恋をした。今日は恋をしている。明日もそうだと良いと思うけれど、まだよく分からない。それが気になってしょうがない鬼瓦くん、得意のストロンゲスト占いをすることにした。これは、近くのスーパーでネットに入った3個入りの玉葱くんを買ってきて、「ラブ!」「ラブではない!」「ラブ!」と叫びながら一つずつ右膝の裏で砕いていく占いなんだ。余ったネットはあとで甘露煮にして美味しく頂きますので堪忍やで。昨日思いついて昨日もやったこの占い、今日も今日とてテンポ良く、鬼瓦くんの「ラブ!」に玉葱くんの「ア゛ア゛ッ」という合いの手のような悲鳴が応える。まるで砕かれた玉葱のような悲鳴だ。
「ラブではない!」
「ゴブォッ」
 砕ける2つ目の玉葱くん。飛び散る玉葱。さあ最後の3つ目だ、膝裏の良い位置に玉葱くんをセットしたところで、鬼瓦くん気が付いた。膝の裏で玉葱くんを砕いたら玉葱くんは死んでしまう。
 ふるふる春風に揺られる玉葱くんのヒゲ。
 でもここで躊躇してしまえば占いの結果はラブではなくなる。膝裏で玉葱くんを砕けるのはストロンゲストゲート略してストロンゲートが開いている間だけだ。夕方5時には閉まってしまう(門限)(ストロンゲン)。ギギギと音を立て閉まり始めるストロンゲート。躊躇う鬼瓦くんに玉葱くんが言う。
「ええから早くボクを砕くんや、曾根崎くん」
「鬼瓦くんです」
 泣きながら答える鬼瓦くん。視界が滲むのが、とても嫌だと思った。そして、
「ラブ!」
 閉まる膝裏一閃、砕け散る玉葱くん。上げなかった玉葱くんの悲鳴の代わりとばかりに、止め処なく流れる鬼瓦くんの涙。昨日パンに塗って食べた松脂のお陰でなんだかべたべたしている鬼瓦くんの涙。それを手に塗り込めて、鬼瓦くんは玉葱くんの破片を拾って、出来の悪いパズルのように組み立てた。玉葱くんには芯があって、皮があって、目があって、スピーカーがあった。目を5つ全部元通りの場所に戻すと、その瞳に色が戻る。そして、最後のスピーカーをセットすると、玉葱くんがまた、さっきと同じ声で喋りだした。
「グーテンタークや、曾根崎くん」
「鬼瓦くんです」
 今度は、笑って答えられた。そして、もう一度玉葱くんを膝の裏に挟む。そのままの姿勢で草原に背を付けて、膝を抱えるように持ち上げた。大きな声で叫ぶ。
「ラブではない!」
「ゲブブブゥ」
 今度は悲鳴と一緒に、玉葱くんの砕ける音が再度、透明な空に響いた。もう既に、ストロンゲストゲートは閉まっている。だから、これは占いではない。だって、鬼瓦くんはもう、その答えを知っている。
 砕けた玉葱くんの破片は、きらきらと夕陽を跳ね返しながら、持ち上げた膝の裏から鬼瓦くんにゆっくり降りかかる。玉葱くんに包まれている気がした。胸の上に落ちた、右から二番目の目を、潰さないよう指の先でそっと摘んだ。鬼瓦くんは、明日も恋をしている。