くるいのうたげ。

サマーチャレンジっての行ってきてたんです。えっと、筑波にある高エネルギー加速器研究機構KEK)に全国から物理やってる大学3回生を集めて、講義やったり施設を見学させたり*1、班ごとの課題を与えて実験させたりする行事で、18日の京都筑波の往路から今朝の宿泊費と旅費まで最低限全額出してもらうというまあ気合いの入ったイベントですよ。まあ食堂(初日にゴキブリ1家族みたよ)のメニューもやたら油っぽいのばっかりで3択あればいい方、無くなり次第カレーのみに移行したり主食抜きを宣言されるようなところで結構うんざり、自腹で外に食べに行こうにも土地勘と自由時間とあと街灯が圧倒的に足りない中で最近のマックが1.8km先という陸の孤島なんですよ。そんな中で5,6人の班を作ってみっちり実験を9日間続けさせてみなさいよ。すっげえ楽しかった。

んでiPodの再生記録とか撮った写真とかから必死に自分のタイムライン作ったり使ったパワポとか見たりしながら日程を思い出すと、やっぱり3次元の人間と関わるのも面白いなと思うね。班の中で初日に出された宿題に対して俺の出した答えが「無茶苦茶だけど原理的には出来る」って感じので*2担当の先生*3に褒められたりとかしたのと、あとは大学名だな、なんか初日から他大生と仲良くなりしかも自分の頭の良さもさり気なくアピールするコミュ強者もいいところな同級生(俺も実物初めて見たけど、お噂はかねがね、な人)が行ってたせいで京大凄いみたいな雰囲気が出来ちゃったりってのもあって、身分不相応にも俺が他大生の物理の勉強の相談を受けたりした(基本的には「てめえで本読め」しか言えないよ、そんなん)り、東大生とえんえん明治大正戦前の文豪について喋ったり*4、ずっと大学で同じクラスだったのに筑波で初めて喋った人たちとか、あとはもうそんなん関係なく酔っぱらってどうしようもない下ネタでゲラゲラ笑ったりとか、そうやって人と喋ることって時間的に損か得かで言えばまあ損なんだけど、楽しかった。だってさ、ヤフオクせどりやってるファオタとか、実験でやることなすこと9割方裏目に出るド天然とか、あんまりエロゲに出てこないじゃん? そんなわけわからん奴らだけど、共通言語として物理がありますから、喋れるんだよね。んまあ、俺もその為にオタ趣味とブログを隠しきったのは良いことでもないんだろうけど。


じゃこっからは俺たちのやった実験を簡単に説明しましょうか。定量的に知りたければ、俺が今の3次元も悪くないな的ハイテンションを失わない内にアポを取って下さいな。この説明を感情抜きで淡々と説明するのは難しいけれど。
まずはね、短距離で万有引力(逆自乗冪)ってあんまり実験で確かめられてないわけ。つまりそこでは関数形はなんでもいいのね。例えば質量のある重力子があって近距離でしか働かない強い力みたいなファクターがあったっていいわけですよ。更にだよ、重力子に質量が無くても空間が3次元じゃなかった場合はね、エネルギー保存考えて(次元数-1乗)に反比例するわけじゃん。余剰次元だよね。重力定数変えればプランク長が変わるんだからこの余剰次元が思いの外大きいことだってありえね? っていうのがモチベーション。つまり、近距離での重力の振る舞いを調べれば、仮に余剰次元があった場合にその次元数と大きさについて定量評価が出来るということ。この実験をねじれ秤って言うの使ってやるんですわ。そりゃ加速器使ってやればもっと簡単に出来ますよ。ですがね、ホーマックで買ってきたアルミ板から素人が金ノコで切り出したようなものでもそれなりに加速器といい勝負するんですよ。1TeVくらいの加速器相手に、余剰次元数が2ならmmスケールの測定でいいんですもん。んまあそうやって「加速器イラネ」っていう実験をKEKでやってご覧なさいよ。全部KEKのお金でね。そしてKEKの正式名称を見直してごらん。なんて書いてある? そう、「高エネルギー加速器研究機構」だね。そりゃ自分たちの班がいくら満足感に浸れる発表したところで最優秀賞はとれないよ。いや、審査は公平でしたがね。つうか発表も自己満足も良いところ、班内の内輪ネタで発表中に笑いかけたり、「理想化されたコピーおじさん」に至っては班の人にも言ってないからこの世で俺だけが楽しい言葉なんだよね。それでいて自分が喋る折にはテンパって記憶がない。もう担当の先生が「あんなに徹夜して一字一句まで原稿直してやったのにアドリブかよ」みたいな顔をしてたり、もらった質問に何故か喧嘩腰で答えてみたりとちょっと自己満足フリーダムに陥りすぎたね。
ま結局俺らがやった結果は、物理的にいうと「調べた範囲内では今んとこ逆自乗則に乗ってるけど、更に近距離ではずれる可能性もある。だけどずれる場合でも余剰次元があるならその定量に評価は出来たし、これから近づけて実験するにも、どの程度の量まで近づければ評価値を強くできるかはわかった」です。ある意味何も言っていないし、ある意味では大きな意味を持つ、そんな結果だったと思いますがね。


まあこんなことをやった数日間でした。人間的にも自分にとって決して小さくない経験になったし、まあ物理屋としても専門とまでは言わないけど1つ自分の弾数が増えた感じもある。実験の誤差伝播も自分の手で責任を持ってやるのも理論志望として足りてなかった部分だし。そういう損得だけじゃなく、何と言っても楽しかったね。終わって帰ってきてからこんなに「全ての瞬間を覚えていたい」と思うほどなのは久しぶり。ま、陸の孤島だから楽しく仲良くやらないと生きてけないという意味ではストックホルム症候群と原理は同じか。

0808291448追記:
さっきからまるでアクセスカウンタが「事務とTAとかの間で回ってる反省会メールにこの記事のパーマリンクが貼ってある」かのような回り方をしてるんですが気のせいですね?

*1:写真をいくつかfotolifeに揚げています。テーマは「研究者も人間。」

*2:具体的に言うと「重力は弱くて簡単に測定できません。鉛球を使って測定するにはどうやったらいいと思いますか」に他の人が配られたテキストに書いてある振り子とかねじれ秤の方法に一工夫って感じだったところで、俺は「出力値が弱い→正のフィートバックで出力値を大きくすればいい→3体問題の初期値鋭敏性使って任意の関数形をシミュレーションと比較すれば、フロートとかを考えないなら原理的には出来るかな」というあんまり意味のない虚仮おどしを出しました

*3:京大出身だからそういうのが好きなのかもね

*4:「自分が勉強の途中だからさ、なんか自分から物理について語ることって別にないよな」「そう言われればそうだけど」「本とか読む?」「なんか昔の小説とかね」「どんなん?」「谷崎とか」「『春琴抄』良いよな!」