誰からも知られ愛される存在になる道を選んで

 午前中にのんびり起きるわけ。布団とフローリングマットをまとめて(明後日に大型ゴミとして出すのは大家さんにお願いした)軽く掃除機かけて、あと残した小型家電は出町柳のホームセンターのゴミ箱に投げ込んでいけばいい、それでおしまいのはず。1晩大学で過ごして昼までに引っ越し先に着けばいいや。と思って布団から起き上がって、枕の処分を考えてないことに気づくね。枕、枕かあと思って。これも10年使ってるから捨てるとして、なんつって、結局大学で捨てる決心をするね。のんびり起きて、それから風呂って余ってた米炊いて食って。もう食器類は送っちゃったから、冷めるまで待って炭水化物を素手で摂取してるよ。そう、なんか意外と最後に米とか蕎麦とか余っちゃってて、これを捨てるの忍びないんだよな。結局炊いたり茹でたりして余ったものを、ジップロックすら捨てちゃったからお茶のティーバッグが入ってた密封袋に入れて送る用の箱に入れている。米がお茶くさい。蕎麦は学校に置いてけばいいや。そんでまずフローリングマットを剥がすんだよ。これ、10年前に大学に入ったときに畳の上に敷いて一度も空気を通してないんだ。なんならこのフローリングマットの上に敷いてた万年床は1,2年でカビだらけになってるわけで、その下は京都の湿気で果たしてどうなっているのやら、もう恐ろしいを通り越してちょっと楽しみになってたよね。実は床が抜ける寸前なんじゃないかなんつって。グルグル巻いて剥がしてみたら、びっくりしたよ、青々とした畳、あの芳しい香りが立ち上ってくる。え? と思って。なんかもう、完全密封になってたからなんだろうね、完全無傷だった。びっくりするやら残念やらという気持ちのまま、その畳の上を掃除機かけます。なんかね、全然吸わない。スイッチ入れた直後に何かが詰まる音がして、それから後は出来の悪い箒みたいな役目しか果たしてない。繰り返し。あのね、箒なら別にあるのね。完全に捨て忘れて困ってるやつね。なんならこのまま忘れたふりして玄関先に置いてこうと思ってるようなやつがね。つうか掃除機、壊れてたんだな……。知らないうちに……押し入れの中で……。切ない話だな……。結局本物の箒の方を使って畳を掃きます。なんか京都っぽいな。それから、いつか捨てようと思って捨てずにいた、洗って開いて乾かした牛乳パックを捨てに近くのスーパーへ。フルグラおじさんは気がつくとこれが溜まるからな。気がついたら結構時間経ってて、昼過ぎに1度目の出町柳行きを決めます。この時点で炊飯器とIH調理器とケトルと、あと学校に「要る人持ってってね」って置いてきたけど誰も持ってかなかったドリルとがあって、これをなんとかしなくてはいけないのだ。炊飯器もIH調理器もかなりへたってて、つうか見た目汚いからバスに乗るときに包装が必要なレベル。入れるようなカバンももうないけどな。IH調理器とケトルを持って家を出ます。
 ゴミ捨てに何往復かするためだけに市バスの1日乗車券を買って乗っていくね。そしたら戻りのバスが全然来ないわけ。この時期の京都の土日だよ、桜目当ての観光客でいっぱいだもの。なんかPCが数日前からないせいでiPhoneで聞いてるラジオも全部聞き終わっちゃってぼんやりするしかない。なんか1時間くらいかかって家に戻ります。ついでに、うちの近くの八神社っていう、まあ小さい神社があって、銀閣寺のすぐ近くからちょっと外れたとこにあるとこで、まあここで御朱印をもらえなかったことは相当悔やまれることなんだけど(普段は人が誰もいなくて、御朱印は要事前連絡ってなっているところ、正月にはさすがに誰かいんだろと思ってたら、御朱印社務所へって言われて、でもその社務所がどこか分かんなくて(普通の木造民家ならあるけど人の気配はない)諦めた)、まあここの御神籤の第n番ってのをコンプリートしそうなレベルで通い続けた神社なので、最後にもう一度お参りはしましたね。家に戻ります。そんで次に粗大ゴミの掃除機やら布団やらを外に出して粗大ゴミシールを貼るんだけど、あのね、さっき丸めたフローリングマット、実はこれ、ちょう重い。俺が抱きかかえて玄関先まで持っていくのでかなり精一杯のレベル。これ、翌々日朝だかに大家さんに頼んで家の前に出してもらおうと思ってたんだけど、かなりそれは気が引けるレベル。大家さん、だって80歳近いんだよ。DDTのヨシヒコなんか目じゃないレベルの1人スープレックスで腰折られちゃうよ、そんなの。参ったな、なんてちょっと玄関先で思ってたら、ちょうど大家さんが通りがかって。「明後日に出すって言う粗大ゴミって、これ?」「あー、はい、そうなんですけど、ちょっとびっくりするくらい重くて」「困ったわね」なんつって。結局、家の前の階段に立てかけるようにして紐で固定して雨に濡れないようにビニール袋を被せて、なんてちょっとした工作をやる羽目になっている。いやまあ、頼む側だから別にいいんだけど。

 そっから二度目のゴミ捨てに行きます。今回は炊飯器を取り敢えず持って学校に行って、そこでドリルを回収します。学校にこのタイミングで枕置いてったのかな。そこら辺にいた学生に「今日お泊まりなんだー」なんつって。「1人パジャマパーティだぜー」とか言って、もう16時くらいになってる。そのままゴミを捨てに行ってもっかい家に戻ります。今度こそ最後だ。家の中に何も残ってないのを確認して、カバン2つとトランクケースいっぱいに、通帳とか判子とかの送れないものを詰めて、あと最後に送る予定の小さな箱を抱えてですよね。というか、最後に処分したトイレの消臭力をこぼしたせいで、この箱がものすごいジャスミン臭い。それをちょっと家の脇に置いて大家さんに最後のご挨拶に行きます。もう10年になる、とても良くしてくれた大家さんで、この最後も別れを惜しんでいるんだけど、俺はちょっとだけ、家の脇に置いてきた通帳入りのカバンのことが気になって気もそぞろ。そんな感じで取り敢えず学校に行きます。さあ、いよいよ住所不定無職ですよ。
 学校に行ったら、学生が結構な割合でいて、というか、もう19時近くになってるのにみんなご飯に行ってなくて「さっき来たとき、来るって言ってたんで、待ってたんですよ」なんて言ってくれる。マジかよと思って。「ところでなんかジャスミン臭くないすか?」「飯行く前にコンビニ行ってこれ送っていい?」なんつって。「最後だし、cmizunaさんが行く店選んでいいですよ。なんか思い出の店とか」あんまないんだよねー。ずっと友達いなくて、ご飯とか家でアニメ観ながら食ってばっかりだったから。「どこでもいいなら、ガラムマサラかな」ガラムマサラっていう、ちょう旨いけど高いしあと接客がすごいクソでしかもちょっと遠いっていうカレー屋があってな。そこ、わりと大学院入った直後くらいに先輩に連れて行ってもらった思い出が強くて、先輩が最後に後輩を連れて行くならそこかな、と思ったんだけど。「そこはさすがに遠いっす」「だよねえ」次に捻り出したのが近くの和食屋さん。これ、俺の思い出っていうか、俺が世話になってた教員が好きだった店で、しかもその人がいなくなってから店の名前がかなり急に変わったから、もう何も思い出とかはないんだけど。取り敢えずそこにみんなでぞろぞろ行きます。行ったら休みでさ。やってなくて。っていうか、店変わってから来たことないから、どういう状態が休みなのかもよく分かってないんだけど。こっち方面でなんか店、って言って次に捻り出したのが、くらり食房っていうお店ね。これも別に思い出はないんだけど、俺が京都に引っ越してきた直後くらいに父親が泊まりに来たときに、父親の方がそこの店を気に入ったらしいってんだけど、それも数年後だかにオーナーが変わったとかで興味を失っていらい行ってないのね。最後に選ぶのがそこである。ムール貝のポトフとかトムヤムクンとか食ったね。あとおまかせディナーセットにおまかせポトフとかおまかせマグロセットとか、やたらお任せメニューにぶん投げたけど、まあ普通。miitomoの話とかしたような。
 学校に戻ってからもみんなでぼんにゃりお菓子つまみながらどうでもいいことを喋るなどしていた。俺が最近観た平田オリザの演劇『新・冒険王』、日韓の若い世代の話なんだけど、これを韓国人留学生の二人に観て欲しかったけど勧め損ねた話とか、唯一この日いなかった学生ってのがなんか同級生と近くの温泉に行ってるらしいってんでfacebookに写真を揚げてるのを弄ったり、など。午前2時くらいにみんなが帰るのを見送って、俺は研究室で眠ります。with研究室になぜかずっとある伝統の毛布。誰かがクリーニングに出そうって言い続けて6年経つ。先輩の名前が端っこに刺繍してあるんだけど、もうその人の在籍とかぶってるのが実質俺とその1個下でもう2人ともいなくなるから、完全に伝説の毛布と化している。