キュウリの漬け物をカッパ漬けっていうけど、それはべつにホテルの飯とかには出てこなかったな。むしろ青森でのホテルで出てきて「あっ」って思った。(4日目 岩手編)

よてい
8:02 仙台-(やまびこ)-9:07 新花巻-(はまゆり)-10:01 遠野
遠野市立博物館(45m)+とおの物語の館(45m)
レンタサイクル(1day)
遠野八幡宮→カッパ淵+伝承園→卯子酉神社+五百羅漢→続石→千葉家曲り家→遠野駅

 仙台の宿をチェックアウトして、今度は岩手県遠野市ってところに行きます。『遠野物語』で有名なとこですね。実際に読むと分かるんですけど、遠野物語って、どこの家の誰々が山でマレビトにあったとか、どこの寺で幽霊が、みたいにかなり具体的な話なんですよね。そういうの、実際行かないとどんな感じか分かんねえと思って。まあ行くわけです。新幹線と快速を乗り継いで2時間くらいですか。

 まあ十勝の方が多いですけどね!(謎の対抗心)

 もう音の数だけでなんか言ってる

 どっちかというと、同じ本に入っていた『ビジタリアン大祭』のせいで俺の宮沢賢治に対する印象が悪い。

 さて、遠野駅なんですけど。あのねえ、予定ではレンタサイクルってことになってるけど、いかにも午後から雨が降りそうな感じがしてるわけ。それで、駅前からバスツアーっていうのもあるんですよ。10:30開始で、5000円くらいで、だいたい俺が行きたいところもあらかた回る。1ヶ所回らない神社もあるんだけど、そんなに遠くないところだから、それこそ終わった後に自転車借りるかすれば行けてしまう感じ。ただねえ。遠野を自転車であちこち駆け回りたいっていう気持ちがあるわけ。ガイドブックもそれを推している。幸いまだ雨もそんな降ってないし。ただ、土地勘ないとこだから、レンタサイクルの閉店時間である17:30までに自転車を戻しに来ようと思うと、全部回れるかどうかも自信は無い。どうしよっかなー、なんて言いながらホテルへ荷物を預けてるうちに時間が過ぎて、レンタサイクルしか選択肢がなくなっている。というわけで、まず近くの市立博物館へ行きました。
 市立博物館、入るとまず受付の人に、2Fに上がって映画を観て下さいって言われるんだ。行ってみると、遠野物語に関する10分か15分くらいのやつが幾つか選べて、選ぶと人形劇みたいなのが始まるんだ。まあ面白そうではあるんだけど、わりとメジャーどころの話(白い鹿とかマヨイガとか)だし、遠野物語はここに来る前に読み返したし、レンタサイクルは時間がアレだから略せるとこは略したいしってんで、もうほっといて先に行きたいんだけど、なんかもう受付の人が見張っているような気がする……。まあ実際はそんなことなく、先に行って問題なかったけど。その他だと、史料映像で観た遠野の獅子踊りの中の、バックダンサーの動きのキレがヤバかったんだけど、これは表現ができない。

というタイトルのアニメが7月くらいに作られたらしくて、ググるとニコニコとかでも観れるんだけど、それが延々とリピート再生されていた。午前中のあんま人のいない博物館に繰り返し響く、桑島法子(岩手出身)のアニメ声である。
 次は物語の館か。近くにあるし共通入場チケットあるから行ったけど。ここのメインは語り部の人の話なんだけど、俺が泊まってるホテルには夕方に語り部の人を呼んで話を聞くイベントがあるから、正直自転車の時間確保の方を優先したいんだよねえ。だけどこれ、着いた瞬間がびっくりするくらい良いタイミングで語り部の話が始まる時間で、もうそれを無視しちゃうと、何しに来たのかよく分かんない人になってた。
 途中のお菓子屋さんで名物の揚げ饅頭を買ってからレンタサイクルのところに行きますわな。受付の人がわりと親切で。
「夕方から雨の予報なんですけど、大丈夫ですか?」
「雨に濡れるのは別にいいんですけど、なんか危ないとことかあります?」
「コースにも依りますけど……」
 なんて言って、聞くところによると、卯子酉様とカッパ淵はわりと近いから大丈夫、続石と千葉家曲り家は遠い。
「んじゃ、卯子酉様とカッパ淵に先に行って、続石と曲り家は後の方に時間あったらの方がいいですかね?」
「続石ってのは、自転車降りてから10分くらい山に入るんですけど、遠野の山にはクマが居るので、夕方以降は地元の人でも山には入りません」
「ええ……?」
 この、地元の人でも山には入らないっていうの、結局3回くらい言われた。さすがに聞き入れないわけにもいかなくて、先に続石の方へ行く、途中で卯子酉様に寄れるので、まあ雨とか降ってきたら様子を見て、という感じでコースを決めて、地図をもらって目印を教えてもらいます。ちなみに卯子酉様の唯一の目印は「さわやかトイレ」。
 あのねえ、自転車自体に乗るのが、たぶん1年ぶりくらいなんだよねえ。しかも今回は初めての電動アシスト付きで、1回止まってもっかい走り出すときにアシストが入って「ぐいーん」って前のめりになっちゃってる。まあ恐る恐る、教えてもらった通りの道で市街地を抜けて、卯子酉様へ向かいます。ありました、さわやかトイレ。

 今回の相棒です。サドルの位置を調整しないままにしています。

 卯子酉神社。ここでは、赤い短冊状の布に願い事(縁結び)を書いて吊すんですけど、一面に願いの書かれた赤い布がぶら下がって風に揺れてるの、かなりこわい。

 ぼくのねがいごとです。

 この奥の方に吊されてる赤いやつの1つが俺のです。それから、このすぐ近くに五百羅漢というのがある。なんかね、250年くらい前にえらい和尚が飢饉の鎮魂に、いろんな石に500体の羅漢像を刻んで、もうその石に苔がむしてる感じがアレらしい。地図で見るとすぐ近くでほいほい行けるのかなと思ったら、山道だし工事の影響とかもあって、それがなかなかすんなりとはいかない。五百羅漢まで0.2kmとか書いてあって、数百メートル歩いてみたら五百羅漢まで0.5kmとかになったりする。ぜーはー言いながら見てきます。

 こんな感じのとこ。まあ、確かに刻んであるな……って感じです。もう風化しかけで薄れてるのと、そんなに美術的とかいうんでもなく素朴な図柄なのが、まあ純粋な祈りって感じで、それはそうだなって思います。自転車のところまで戻って、お昼ご飯代わりに、さっき買った揚げ饅頭7個を食います。まあカリッカリなんだけど、いかんせん揚げ饅頭って、持ち歩いて冷えちゃうと、地獄みたいな味することになるよね。なんつうか、揚げたてなら旨いんだろうな、っていう味でした。
 さて。さて、問題の続石に行きます。こっから先は道案内とかもかなり雑で、された説明は「道なりにまーっすぐ行ったら、大きな県道に出ます。上り坂なんですけど、それをまーっすぐ行ったら、着きます」とのこと。まあ行きますよ、まーっすぐ。

 この辺りから、一応サイクリングロードってことになってて走りやすい。

 まーっすぐ行きます。どのくらいまーっすぐかというと、

 このくらいです。

 遠野、ありとあらゆる造形にカッパが使われてて、もう人の人口とカッパの人口がいい勝負になるんじゃないかってくらい。

 これ、電車からも見えるんですけど、遠野に古き佳き民話の地、みたいのを期待すると、こういうのが真っ先に目に入って「Welcome?」と思います。

 まーっすぐです。かなりまーっすぐ来てるし、かなり登り坂も登ってきてるし、もう通り過ぎてるんじゃないか? って心配になりながらも、ひたすら自転車を漕ぎます。

 すると、わりといきなり目印が現れます。道を間違えてはいないようです。

 更に走ります。この季節の田んぼがめちゃめちゃ綺麗です。

 着きました。卯子酉神社から45分くらいですかね。登り坂だし道の分からない不安もあるしなので、消耗はちょっと激しい。着いたらそこには、杖が置いてある。不穏だ……。そんなレベルで山に登んの……?

 鈴も何もないので、ぱんぱんと柏手を打ちながら山に入っていきます。基本的に一本道の岩場なので、前か後ろにクマが出たらもう逃げ場はありません。つうかこわい。警戒しながら歩くと、そこら辺にデカくて黒い石が転がってて「うわあ!」って思います。

 ヤマブドウもなります。山ですから。(追記: これヤマブドウじゃないらしいね?)

 これが、遠野物語にも出てくる奇石、続石です。巨石の上に巨石が乗っている。まあほんとに、山に入って10分くらいで着くわけだけど、あのねえ、この時点でかなり色んなものを警戒してビビってんじゃん、この石の下を通り抜けて、向こうに見えるとこにお参りできると思う? かなり足腰に来てるしね。「はああ……」なんて言いながら、くぐらずに来た道を戻ります。
 続いて行くのが、千葉家曲り家。曲り家っていうのは、この辺りに独特の家の構造で、上から見てL字型の家の、長い方に人が住み、短い方に馬を飼ってるっていう、人の居住区と馬の居住区が繋がって同じ屋根の下で暮らしてるような家なのね。で、この続石に来るまでの間に、かなりそれっぽい形の家とかあるわけ。そこそこ古くてL字型してて、短い方が車庫になってて、あそこで馬飼ってたらもう曲り家じゃん、どうせそんなのだろ、っていうか家でしょ? 人の家でしょ? って思いながら、更に登り坂を登ると、あるね、千葉家。


 思ってたのより全然デカい。全然民家ってレベルじゃない。

 自販機の影に自転車止めたら、目の前にめちゃめちゃデカい蜘蛛がいた。2歩下がる。

 登るとこんな感じです。

 こんな感じ。なんか最近、映画撮影にも使われたようなところで、城と間違えられるから大名が通るときには隠した、っていうくらい立派なとこ。これはちょっとねえ、びっくりした。俺くらいのテンションで行くと、あまりの大きさにびっくりするからいいと思う。
 次に行くカッパ淵ってのは、ここから市街地を挟んで逆側にあるんですよ。だから、今登ってきた坂を下ることになるわけですけど。そんな気持ちよくヒャッハー! って降りられるわけではなく、ちょくちょくなんか梅の実とか栗のイガとか踏みそうになるし、車道をびゅんびゅんトラックが走ってるし、俺は俺でだいぶお疲れだしで、かなり気をつけないといけない感じになっている。台風がどうのこうので、かなり風も出てきている。まあこれを、正直に来た道をそのまんまで戻ればいいものを、「サイクリングロードこちら」みたいな看板に惹かれて、大体方向はあってるけど、みたいな道に迷い込んでしまい、また不安と風に襲われながらの帰り道でしたね。この辺りからぽつぽつと雨が降ってきています。
 そんで市街地を逆側に抜けて、今度は遠野八幡宮。ここのご神体も、遠野物語の登場人物なのだ。自転車を止めて参道をしばらく歩いて、参拝して御朱印をもらいます。ご朱印ご朱印帳にもらうと、見開きのページに移らないように、和紙とかを挟んでくれるとこが多いんだけど、ここではティッシュを挟んでくれたので、そのティッシュで眼鏡に付いてる雨粒を拭きました。そのくらいのレベルには雨が降っています。

 遠野八幡宮の手水です。遠野のカッパは赤いのだ。
 そんで自転車に戻ったら、なんかペダルが重いわけ。あのねえ、電動アシストが効いてない。ここまで電動アシストが付いてるからなんとかやってきたけど、これがないとこの自転車、やたらペダルが軽くて漕いでも漕いでも前に進まないんですよ。そしてこっから先もまた登り坂です。

 充電切れではないですよね。ググっても、これがなんのエラーなのかが分からない。そっから30分くらい、雨の中を登るのが一番つらかった。もう膝がくがくだよ。自転車で登り坂を登るときって、立ち漕ぎして体重でペダル押しちゃうのが楽なんだけど、これ確か大学の学部の2回生ぐらいのときに「そういや、周りの人で、立ち漕ぎしてまでなんかマジになって自転車漕いでる人、いないな?」って気付いてやらなくなったやつ、久々にやってみようと思うも、そもそも立ち漕ぎに膝が耐えられなさそうで断念する、ってくらい。

 こんな舐めた顔したやつの前をぜーはー言いながら走ります。着きました。まずは伝承園というところ。ここはまあ色々あるんだけど、一番の見所はオシラサマかな。遠野物語にもある馬と女の異類婚姻譚に由来して、蚕の神様として有名なやつ。馬とか人の顔が付いた金属の2,30cmくらいの棒が狭い部屋のあちこちに突き出てて、それに願いを書いた色とりどりの布(まんなかに穴が開いてる)を架けるんだよね。圧巻というか、どぎつい色とりどりの布に書かれた、人の願い事の多さみたいのに圧倒される。あんまご神体の写真撮るの好きじゃないから撮ってないけど、ググれば出てくるから興味あったら勝手に見てね。

 ぼくのねがいごとです。
 そんで、伝承園に自転車を止めたまま、近くのカッパ淵というところに行きます。

 近くにあった山岳信仰の鳥居。この先に早池峰山があるんだと思います。
 カッパ淵ね。綺麗な小川で、昔はこの辺にカッパが多くいたと言われているそうな。近くにあるお寺が火事のときには、頭のお皿から水を出して消し止めてくれたそうだよ。


 まあ静かな川です。

 向こう岸の枝の下を流れているのがカッパです。
 伝承園に戻って、さて駅に戻ろうとしたら、電動自転車の電動アシスト、急に復活してさ。なんなのって感じだよ。それでちょっと元気が出てきたので、来る途中にあった、キツネの関所ってとこに寄ってみることにしました。

五日市のキツネの関所
町場に来る村びとたちの楽しみは茶屋酒を飲みながら、ほら話をふきまくることでした。(以下略)

 ……。……。……え? ほら話って、言って、いいの? 遠野だよ? ほ、ほら? ほらって言っちゃって、いいの? いや、うすうすアレっていうか、東北の山中の厳しい生活と限られた娯楽、いろりを囲んでの口伝の民話とか、それが本当に根付くに根付いて、現実と虚構のすごいバランスを保っていることが、既に一周回って素敵なことになってるのが遠野だと、この日1日自転車を漕いでの俺は思っているよ? それを最後の最後に、ほら話と言って切ったか……。いやほんと、あちこちにカッパを推して観光向けに町を作ってる(パチンコ屋の駐車場のマナー注意の看板すらカッパ出てくるからな)のに、これが本当に遠野が観光に吹っ切ろうと思ったら、山の中の続石みたいなところにマヨイガとか作ってお椀とか配っちゃえば、観光客の来るとこ1個増えて万々歳でいいわけで、でもそれをやらない、最後の最後のところで住んでる自分自身もちょっとだけ信じてるっていうか畏れてるというか、そこの虚構とのバランスが、俺はすごく好きなんだよなあ。そんなことを考えながら遠野の街中まで戻って自転車返して、へとへとになりながらホテルに戻りました。

 雨の寒さで固くなったところを摩擦でバーンやで!
 ホテルでは例の、語り部の人を囲んで民話を聞くやつがありました。

 口伝のものだし、特に最近は世代間というより、語り部の人が先生について教わるものになってるらしいので特にだけど、落語に近いものがあるかなーとか思いました。特に、オシラサマとか寒戸のババアの話とかの、遠野物語にも出てくるようなやつ以外の、あんま土着感のないやつは、落語の方言版みたいのを聴いてる感じになります。ちなみにここに書いてる背病みってのは、無精が過ぎて寝っ転がりすぎて背中が病気になるくらいの無精者のことをいいます。
「今どきの言葉で言うニートです」
 なんて言う語り部は、俺の方を向いて言っているような気がする。話の中身は「ふゆじどん」でググると何故か出てきます。ホテルで食った御膳の川魚の塩焼きが旨かった。