笠井献一 『科学者の卵たちに贈る言葉 -江上不二夫が伝えたかったこと』

 戦中くらいに名大の教授になったくらいの年齢の生化学者、江上不二夫が後進の育成に際してかけ続けた言葉を、その弟子である著者が追想してまとめる。物凄い勢いで学生をおだてて、生物の実験の人なのに流行りに乗らずに独自に重要な課題をやろうとして、実験の失敗のデータに大喜びして独自の解釈をでっち上げて、自然の奥深さに素直に感動して、というある意味では牧歌的な時代にしか存在し得なかっただろう理想的な科学者を魅力たっぷりに回想する。なんというか、難しい課題にぶち当たったり、死にそうになったら人間自分でいくらでもなんとかする(研究をやめることも含めて)わけで、後進を育てる上では無責任に楽しそうにencourageしていくっていうのもありなんだろうな。その胆力があるかどうかが問題だけど。